上村 もし「母親」とうまくいかなければ、おばあさんでも、近所のおばさんでもいい。「あなたは大事。あなたが一番かわいい」と言ってくれる人がいたら大丈夫なんです。自分の存在を誰からも認めてもらえずにきた人が、「お母さん」になっていくらがんばっても、「子育てはやって当たり前」と夫や周囲の誰からも認められずにいたら、おかしくなるのも当然でしょう。
藤本 この新聞で伝えている、「お母さんはスゴイ!」という言葉に救われたというお母さんも、たくさんいます。
上村 初めて「お母さん業界新聞」を読んだとき、藤本さんの思いを知り、共感しました。大切なのは、母親が「自分」というものを持つことです。
藤本 私はずっと、出会った母親たちに「あなたの夢は何ですか?」という質問を投げかけてきました。それが「自分自身」と向き合う最初のきっかけになるのです。たいがいのお母さんが子どもと夫を優先し、自分のことは後回し。だからこそ私は、「子育てとは、お母さんが夢を描くことだよ」と言い続けてきました。
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上村 子育て以外に「生きがい」を見出せないお母さんが、子どもをお人形扱いした結果、「お人形の氾濫」として摂食障害や虐待を起こす。もともと日本は「個」がない国ですが、あまりにも大人として成熟していません。「自分」の価値観を持たない大人が大半で、多くの問題はそこにあります。
藤本 そういう患者さんたちを、先生はどのように治療していくのですか。
上村 薬も処方しますが、カウンセリングも重要です。しかも、「人間って何だろう。自分って何だろう」といった根源的な話からです。「お母さんである前に、ひとりの人間である」ということに気づいてほしいので、私自身が、医師である前に「ひとりの人間」として接しています。
藤本 医師と患者は上下の関係と思いがちですが、先生の場合は、同じ人間なんだというところからスタートですね。
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上村 むしろ、患者さんから学ぶことだらけの毎日です。医学部に入る前に学んだ社会学では、人はみな「よく生きる力」を持っているということを学びました。病院に来た人はみなとても傷ついている。にもかかわらず、命を落とさず、必死に生き抜いて今日がある。そんな素晴らしい力を持っている人たちを尊敬する気持ちで一人ひとりの患者さんに接していますし、スタッフにもそう教えています。
藤本 くじらホスピタルは、ホテルのようにおしゃれで明るく、柵も鍵もない病室。スタッフも白衣を身につけず、一般的な精神病院のイメージとはほど遠い、病院らしくない病院でびっくりしました。
上村 ますますおかしな世の中で、人々は疲れ傷ついています。そんな人たちが気楽に足を運べる施設。病気になってからではなく、未病の人を救いたい。そう思っています。
藤本 病院で定期的に開いている「家族の会」とは、どのようなものですか。
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上村 一人で心の傷を癒すのはとても苦しい作業です。同時に、毎日責め続ける、怒りを暴力で爆発させるなどの問題行動をとる本人の周囲で、「私の育て方が悪かった」と自身を責め、「どう接していいかわからない」という家族の苦しみも相当です。彼らがほかの家族と出会い、話すことで解決の糸口を見つけたり、支え合ったりするための会が「家族の会」。また「らんぷの会」といって、専門医師がテーマを決めて「心の病」のことなどを話す会も開いています。
藤本 患者さんだけではなく、心や病気について、広い理解と協力を求めようという努力はもちろん、地域貢献や医療機関としての先駆的な取り組みという意味でも大切なことだと思います。最後に、お母さんたちに一言お願いします。
上村 追い詰められているお母さんが多いことに、危機感を持っています。未来をつくる「お母さん」という仕事は、社会にあるどんな仕事よりも尊いもの。だからお母さんたちはもっと自信を持って、威張っていいと思います。完璧なお母さんでなくていい。子どもは、どんなお母さんでも大好きなんです。今、自分を愛せない人は、とにかく自分を抑えずに、楽しく笑顔でいられることを心がけてください。世の中のしくみや周囲の手助けも必要でしょう。そのために私ができることはやっていきたいし、藤本さんにもがんばってほしいと思います。
藤本 力強いメッセージをありがとうございます。今の言葉には、医師としてというより、「お母さん」としての思いがたっぷり込められていたと思います。これからはお母さん大学の校医として、お母さんたちのサポートをよろしくお願いします!
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