2012年4月22日日曜日

神戸新聞|ひょうごの医療 シリーズ6 膝・腰の痛みと闘う


人工関節の仕組みを説明する津村さん。関節が滑らかに動くよう、太ももとすねの骨の間に埋め込む。中央の白っぽい部分が軟骨の役目を果たす樹脂=神戸市西区曙町、兵庫県立総合リハビリテーションセンター中央病院(撮影・長嶺麻子)

激しい痛みから解放/「歩けるうちに」がポイント

 明石市の實安(じつやす)タイ子さん(75)は、40代の半ばごろから両膝(ひざ)の痛みに悩まされてきた。小学校の校務員という仕事柄、体を使う仕事も多く、膝への負担もあった。

 何とか定年まで勤め上げたが、2006年ごろから痛みが強くなった。特に右膝には激痛が走り、伸ばすことも、十分に曲げることもできない。「夜中、痛みで何度も目が覚めた」

 「変形性膝関節症」。今から3年前の年末、かかりつけ医から紹介された兵庫県立総合リハビリテーションセンター中央病院(神戸市西区)でそう診断された。


にきびピットを埋めるために作る

 中高年に多い「変形性関節症」の一種。年齢を重ねると、関節内の軟骨が傷んですり減ることがある。「退行変性」と呼ばれる現象だ。関節を滑らかに動かす役割がある軟骨がすり減ると、慢性的な炎症が起きたり、関節の骨が変形したりする。症状が進むと、骨と骨が直接こすれ合い、激しい痛みが生じるようになる。

 「人工関節置換術による手術治療を勧めます」。病名を伝えた直後、同病院副院長の津村暢宏(のぶひろ)さん(52)はこう告げた。

■最終手段

 変形性膝関節症の治療は、消炎鎮痛剤や湿布薬などを使いながら、関節を温存する保存療法が基本で、手術は最終手段。實安さんの場合、歩行が困難なほど痛みが激しく、関節の変形でO脚が進んでおり、手術しか残された方法はなかった。實安さんは覚悟を決めた。

 人工関節置換術は、膝に約12センチの長さでメスを入れ、電気のこぎりで関節の骨を部分的に切除。かわりに人工の関節を埋め込み、固定する。人工関節は、コバルトクロムなどの合金と、軟骨の働きをする樹脂でできている。

 すでに40年ほどの歴史がある、代表的な手術法で、効果、安全性ともに高いとされる。「かつては人工関節の耐久性に問題があったが、最近は約20年は持つとされる」と津村さん。多くの患者にとって、ほぼ"一生もの"となる。

 07年5月、實安さんの手術は無事成功。術後しばらくの間、膝周辺に筋肉痛があったものの、最大の悩みだった関節の激痛からは解放された。


どのように手と同様の足はありますか?

 リハビリなどを含め、約2カ月で退院。ゆっくりと上り下りしていた自宅の階段もスムーズに歩けるようになった。

■普通の速度で

 人工関節置換術について、津村さんは「手術に対する恐怖心などから、なかなか決心できず、後回しにする人が多いが、『歩けるうちに』が原則」とやや早めの決断を勧める。痛みで動かないでいると、筋力が衰え、いよいよ歩けなくなってしまうと、手術で関節にトラブルがなくなっても、再び歩くのは難しくなる。

 ただし同時に、慎重さも求められる。手術に適した年齢は「およそ65〜75歳」と津村さん。これ未満だと人工関節の耐用年数の関係で、再度、交換のための手術が必要になるケースがあるからだ。逆にあまり高齢だと、術後のリハビリが難しくなる。ちなみに同病院でこの手術を受ける平均年齢は70代前半という。

 また、骨粗鬆(しょう)症などを患っていると、人工関節と骨の間に隙(すき)間ができることがあり、この場合の再手術は技術的に難しく、出血が多いなど負担が大きいことも理解しておきたい。

 實安さんはその後、左膝の状態も悪化したため今年7月、2度目の手術を受けた。まだ違和感が残るものの、普通の姿勢とスピードで歩けるようになった。

 「『きれいな姿勢で歩いているね』と言われます。O脚で避けていた細身のズボンもはけるようになりました」

 痛みが癒えた實安さんが穏やかな笑顔を浮かべた。


背中上部の中間の痛み

退行変性 体の組織が質的、量的に変化して、本来の機能が低下したり、失われたりすることで、老化現象の一つ。体の組織は、正常な機能を維持するために常に補修(代謝)を行っているが、年齢とともにその能力は低下する。さまざまな組織で起こるが、特に軟骨は栄養を届ける神経や血管がないため変性を起こしやすく、いったん具合が悪くなると元に戻りにくいとされる。

 世界保健機関(WHO)によると、日本人の男女総合の「平均寿命」は世界一の82歳。そして生涯で自立して生きられる期間を指す「健康寿命」は75歳でやはり世界一だ。両者の差は7年。ここから、人生の締めくくりの7年間を介護や支援を受けて過ごす日本人の平均像がみえてくる。

 一方、厚生労働省が行った国民生活基礎調査のこんなデータもある。要介護者の2割、要支援者の3割は、「変形性膝関節症」などの整形外科疾患が原因になっている、というものだ。

 一般的に整形外科系の病気は命に直接かかわらない。そのせいか、「年だから」とあきらめて適切な治療を受けないケースが少なくないらしい。しかし取材を通じて「とんでもない」と思った。「健康寿命」に影響してくるからだ。


 1千万人以上もの患者がいると推計され、今回取り上げた変形性膝関節症を含む「変形性関節症」を完全に予防するのは難しい。しかし、骨が丈夫な人や筋力の強い人は、痛みが比較的少ないという。若いころからの適度な運動が、予防策の一つといえる。これは、あらゆる整形外科系疾患に共通する予防法でもある。

 寿命と健康寿命をイコールにする、すなわち元気なままで人生の最期を迎えることは、誰もが望むことだろう。そのためにも年齢や体の状態に合わせた運動を心掛けたい。

(武藤邦生)

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(2009/11/07)



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